浩介は ⑥
沙都子に会ったのは、それから半月ほど後だった。彼女の叔母が亡くなって、叔母には子供がなく沙都子が相続人の一人になっているそうだ。少しは母親から聞いてはいたが生前は全く交際がなく、どこに暮らしているかも知らなかった、放棄するにしても兎に角来て欲しいと、新幹線のチケットを財産管理人が送ってきた。「印鑑を持ってきて欲しい」とも手紙に書いてあった、そうだ。ついでだから姫路城を見て観光しようと思ったのは離婚以来何かもやもやしていたから、と彼女は話を始めた。浩介は感じていた、もう60近いが若い頃の風貌はほとんど変わりなく、ただ頬の辺りがすこしこけてはいるが老いは感じない、美人とは言えないがコケティシュな顔は変わらないなあ、と思った。 折角だからとお城の見えるレストランに案内した。その日のお城はことのほか美しくみえた。