葬儀

 白石一文の「君がいないと、、、」と言う小説には、葬儀の場面がよく出てくる。
 私もこの歳になると何回かの葬儀に出ている。忘れられない葬儀が二つある。勿論、両親の葬儀は別にして。
一つは淡路島でのそれ。仕事の関係先のある工場の代表者の母親の葬儀。母親が独居で借りていた公営住宅で行われたが、最後、棺桶に釘を打つ時、その代表者の兄貴がそれをした。釘士をやっている、と聞いていたがその指が痛々しい程細くて曲がっていたこと、そして釘を打つのが素人のように不様であったこと。見送り提灯が潮風に揺れていた、のを昨日のことのように思いだす。
 一つは愛媛県の南部の小さな村で、それもある工場のオーナーの母親の葬儀。三人姉妹と一番下の長男、長男は東京で大学の助教授をしてるとのことだった。近くのお寺での葬儀の最後に、長男が挨拶と弔辞らしきものを読み上げた。「もう一度、生まれて来るなら、この母と先に亡くなった父親との子供に生まれたい」と。私は40代半ばだったが、自分の時に、こんな事言えるだろうか、と思った事を覚えている。寒空の下、参列者が小さく息を呑んだと記憶にある。

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