淡駕島  (26)


 久しぶりに岡澤から電話があった。姫島で歯医者をしている。ロイヤルホテルで歯科医師会の会合があったらしい。高校時代は仲が良かったが、環境の違いか、疎遠になっていた。今夜は新阪急に泊まるらしい。
 梅田の地下街で会った。まあ小綺麗な居酒屋てな風だ。何故こんな店を知っているのかと思ったが、彼は時々大阪に来ているそうだ。歯科医師会の会合もあるが、女房が高槻の出身らしい。今回、女房は姫島で婦人会かの会合で帰郷できないらしい。婦人会の会長をしているそうだ。
 岡澤は幸市が着いた時に、少し飲んでいて、顔も赤い。「何か注文してよ」と。
 出汁巻と水茄子を注文し、酒は「玉の光」の冷酒にした。腹が減っていた訳でもないが、普通に食べたつもりだったが、彼が
「あいも変わらずがつがつ食べるなあ」と。
「これが普通だ」と私は答える。
「昔からがつがつしてたなあ、酒とか食事を嗜む、なんてなかったなあ」と岡澤が言う。

「俺の家はね、中学までは6畳と8畳二間に6人が、暮らしてた、食堂も居間もない、ただ食うだけだよ。まあ戦後の貧しい時期だけど、食事を楽しむなんてそんな感覚なんかにならないよ、すくなくともその時代はなあ」と一気に話した。
「その癖かなあ、今も食事を楽しむなんてことはないよ」
「おい、何か今、難しい事でもあるのか、そんなに興奮しないでもいいやろ」とたしなめられた。
食事は楽しむどころではなくなり、来た事を後悔し始めていた。

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