淡駕島  (27) u


 季節外れの海岸には、海の家もなく、かっての桟橋もなく、島影は変わり果てていた。島の緑部分は半減しており、削り取られた岩山の残りが烏帽子のように残されていた。採石業者のユーモアか、どうしても砕石出来ないほどの硬い鉱石でもあったのか、奇妙な形で残っていた。
 船は島に寄ることもなく本島まで航跡を残した。知り合いの焼肉屋に行こうと突然思いついた乗船だったが、あいにくその焼肉屋は昼間の営業を中止していた、どんな事情かは分からないが。
 細い道を南に山を登るように歩いた。かってこの道を歩いて坊瀬島への船着場まで歩いたことがあったが、今回は途中で引き返した。行くあてが無かったからだ。
何故か川之江の寒村を思い出した。

 50数年前、淡駕島での夏のアルバイトは二年続いてあった。いつかそのバンガローは廃業したと聞いた。真っ黒に日焼けした日々は思い出に変わった。甘くもあり苦くもあった思い出は綺麗なままであったが、ハマチの養殖もうまくいかなかったらしい、主に赤潮のためだとか、と人伝てに聞いた。

日本は高度成長期になっていた。
大学にはあまり行かなかった。バイトバイトの明け暮れだった。卒業するのに五年掛かった。

寿司屋に行くといつもハマチを頼む、あのコリッとした歯応えが好きだ。その歯応えの度に岬港で陸揚げしたハマチを食べた事を思い出す。

(第一部了)

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