「過ぎし日」(1)

 


 雨樋から落ちた雫が朝顔の葉を時々上下に揺らしている。ネットに這わせた蔓が縦横無尽に走り繁った葉のおかげでカーテンのようになっている。そろそろネットも仕舞おうかと思っていたら、また何輪かの花を付け出した。また何日か片付けられなくなった。
 庄吉は潮が引くように亡くなった夏代のことを想った。いつも朝顔の種を取り、二人で蔓を外し、ネットを片付けていたここ数年、秋の到来と新しい植木の据え付けを1日二人で作業して昼にはスパゲッティを食べた日、そんな日はもう来ないのだ、と朝顔が語っているようだった。
 自分の方が長く生きる、考えたことも無かった。また一枚の葉が上下に揺れた。雨は止むともなく激しくなるともなく、降っている。


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