匂い起こせよ◯の鼻

 河崎秋子の新作が新聞に出ていて、面白そうだから図書館で検索したが、まだ入庫していない、新しいからだろうが、そこで在庫の小説「鯨の岬」を借りた。二、三ページ読むと、嗚呼これは読めるとすすむ。すると鯨の、死んだ鯨のシーンが出てきて"匂い"を思い出すと言う描写があった。匂い?今までの臭い、一番は、無条件に挙げるのは南海電車の車両でのこと。隣の車両から人が一杯こちらの車両に逃げるようにやってきた、僕とYは理由が分からない、こちらの両は満杯、隣をみると空いている、ほとんど人が居ない、まあ訝しい気持ちもあったが、混んでたので空いてる隣に行こうと移った。一人の汚らしい男が車両の真ん中あたりに立っていた、次の瞬間、息を吸ったら、それはもう表現するのも難しい匂い臭いニオイであった。汗臭い肌着、靴下の匂い、長く放って置いた帽子の匂いなんぞは可愛いものだ、その臭いに比べたら、"香水"のようなものだった。汗と便と髪を何ヶ月も洗ってない臭い、強烈、呻吟苦吟、それは表現のしょうのないニオイであった。あれは20年ぐらい前か、あの時以後あんなニオイを嗅いだことがない。
多くの人が逃げて来た理由が分かった時は遅かった、すでにその臭いは「PTSD」となって未だに僕の鼻の前に居座っている。

コメント

人気の投稿