出会い  ③


 アラスカはジンベースのカクテルでシャルトルーズ、まあブランデーの薬草漬けみたいなリキュール、を合わせてシェイクする、強いお酒である、ふ〜っとして見たら彼女はまだ携帯をいじっていて、頬が緩んだように見えた。「今日は結婚記念日であの知り合った店で会おうと彼が言ったの」と喋りだした。もう5年前のことだと言う。彼は当時この街のコンピュータソフト会社に勤めていて、忘年会であの店に来ていて友達と「左門」で飲んでいた、たまたまトイレに入る時間が同じになって、少し早かった彼が譲ってくれて、それからなんとなくその店で会うようになった、とのこと。最近は行かなくなったが、出会いを思い出して5年目の記念日をあそこで、そしてイタリアンでも行くつもりだった。最近すれ違いが多くてなかなか時間が共有出来なくて、今日こそはと固く約束したのにまた彼が来ない、と言う訳だったそうだ。その話の前から彼女への興味が薄れてきていたから
「そう」とだけ返事したら、さすがに彼女も感じたのか、
「あなたは?」と聞いてきた。
「いや偶に行く店ですよ」とそっけない返事になった。彼女が二杯目のビールを頼んだ時に、ガラス戸が開いてスーツ姿の男が入ってきた、細身で髪は長く丸いメガネを掛けていた。
「由香里!済まない、遅くなって」と言って、わたしには
「すみません、お世話になりました」と言って彼女に
「じゃ出ようか」と。そしてマスターに「お勘定を」と言ったから
「いやいいですよ、払っときますよ」と、彼女が
「悪いから払って」と、結局は入口に近いところで払って行ったようだ。気の毒そうな顔をしてマスターが近づいてきて
「ギムレットにしますか?」と
「ギムレットには早くないね」と言うと彼は口の端に笑みを溜めてシェイカーを握った。客はいつのまにか6人に増えていて、来た時のバーテンダーは奥の方で女性の一人客を相手にしていた。あまり何も感じ無かった、ただ気は楽になった。


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