どこかで


 どこか見知らぬ土地のふと入った喫茶店で、フルートのソロが聞こえてきた。名前は分からないが、聞き覚えのある旋律である。そのメロディと共にかすかな記憶が蘇ってきた。♫♫〜♪♪〜♫〜♪    それは淡い悔恨と切ない恋情が交差する一人の女性との別離だった。 
 その喫茶店は白く長い砂浜を見る事のできる、小さな喫茶店だった。客は居なく、老婆が注文を聞きにきた。私が
「綺麗な砂浜ですね」と言うと
「そうですね、昔はもっと長い浜だったのですが」と遠くの過去を見るような目で海を見つめた。
「遠くから?旅行ですか?」老婆
「まあ、遠いかな?」
会話は途切れた。
「お決まりになったら呼んでください」
と店の奥へと。
波の音が微かに聞こえて来た。いつのまにかフルートはチェロに変わっていた。
サンサーンスだったかな、、、
男は白い浜に対比する様な鈍色の空を見上げた。
白髪の老婆、きっと若い時は美人だったと思える、がアイスティを持ってきた、今、頼もうと思っていたものだ。
「何か哀しみがあるみたいだけど、この世がバーチャル、仮想だと思えばいいんですよ」と言うと奥に消えた。


コメント

人気の投稿