あれはもう30数年前  s〜2




 「あれはもう30数年前になるかな、ソウルからタクシーでインチョンまで行ったんだよ」
  と啓一は話し出した。 
「なぜわざわざ仁川へ?」
「Reimiの店を見たいからさ」
「なぜ?」
「彼女にお金を渡したからだよ」
「いくら?」
「70万ウォン」
「なぜ?」
「洋装店の権利金だって」 
「で、店は?」
「確かにあったけど、覗いたら中でアジュマとアジョシがイチャイチャしてた」
「何それ」
「まあよくあることさ」
  と啓一はジントニックを一息で呑んだ。
「結局はどうなったの?」
「ジ・エンドだよ、それから電話もあったけど終わったね、嘘ではなかったらしいけど、嫌になったよ」
聞いていた夏美は
 この人はいつまでも過去の女を忘れられない人だな、と感じた、少し哀れに見えてきた。
 バーにはバーテンダーと我々二人だけ、港の灯りは雨に煙って何重にも重なって見えて出来の悪いステンドグラスみたいに見えた。

隠しておいた
言葉が
ついほろり出てしまう
「いかないで」
涙ポロポロ涸れるまで、、、♪

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