Oホテル    s


 駅から歩いて10分少し、その高級ホテルはある。二度Tと来たはずだ。19階のバーは楕円形の半分が客席で、後ろに酒瓶の並んだ棚があり、その後の北の街並みを眺める窓際には二人用に仕切ってあるカウンターが5席ほどある、見える席には男と女が窓の方を向いてティーかワインを飲んでいた。
午後3時半
「ギムレットのオンザロックを」
「かしこまりました」若い華奢なバーテンダーが遠ざかった。カウンターの端には黒い長い髪の女が前を向いて座っている、隣りには白いワイシャツの真面目そうな青年がグラスのカフェオレかあるいはアレキサンダーを飲んでいた。すぐ前にタンカレーが置いてあったからアレキサンダーではない、やはりコーヒーなのかも知れない。昼の3時にホテルでカクテルを飲むような青年には見えない。二人は時々話をするが話は長く続かず、女が時々長い髪をかき上げながらこちらを見る。昼間からカクテルを飲む男をこの人は?と言う目で見ているのだろう。しばらくして
「ブルームーンのオンザロック」を頼んだ。カウンターの二人は相変わらずあまり話をしていない。来てから20分以上になるが、無言の方が長いようだ。その時、女が立ち上がった。座っていた時の印象は背が高いように見えたが立ちあがると意外に小柄だった。黒いパンツに上はエンブロイダリーのコットンシャツで、こちらを向いた時、目鼻立ちのハッキリした黒目勝ちな女だった。ブルームーンを半分くらい飲んだところでその女が帰ってきた。私が支払いを済ませるまでは
二人は一言も話さなかった。外の雨はやみそうにない。その二人がどんな関係なのか、想像出来なかった。





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