男鹿島     ⑥ ア

 1年間は経理、2年目に営業に変わった。営業には販売部と仕入部があり、幸市は仕入部に配属、東南アジアに月に一回は行くことになった。山岸と知り合ったのはハノイの「河内ホテル」だった。それからは日本に帰っても週に一回は会った。ギャンブル、おんな、金の作り方、全て教わった。売り先の担当者に金を作らせる方法を教え、そして金を握らせた、女の世話もした。
山岸は「幸ちゃん」と的場幸市をいつも呼んだ。
「幸ちゃん、カジノで勝つなんて思うな、必ずカジノの方が勝つ、ただ此処というチャンスは必ず来る、その時に有り金全部賭けろ、負けたら終わり、勝てるときは一度か二度だけある」それは口癖のように言っていた。
 会社を辞めろ、と言ったのも山岸だった。3年後に辞めて独立した。開業資金も彼が出してくれた。

 初めての男鹿島の夜は対岸の姫山港や岡山の灯火が見えた。夜はカレーライスと味噌汁だった。ビールを勧められたが、未成年であり、また最初の日から酒を飲むのもはばかれた。その時に初めて妹の麗を見た。親父さんの佐垣十郎も来ていたが、あまり喋らないし酒も飲まない。いつも頭にタオルを巻いていた。まゆみも麗もどうしてこんな親から、と言うほど似ていなかった。

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