試練と愉楽は

 S川のそばにあった彼女の下宿は女子学生ばかりの集合住宅だった。門限までの少しの時間、土手に座って別れを惜しんでいた。当時ベトナム戦争時代、クリスチャンだった彼女に
「神は何故悲惨な戦争を止めないの?」と言ったら
「イエス様は試しておられる」と彼女
「じゃ、いつまで試すの?」と、彼女は黙ってしまった、そして弄り始めた僕の右手を強く押し返した。
論争で勝った戦果は気まずい沈黙と逃した少しの愉楽だった。S川に浮かんだ月は唐草模様のように形が無く揺れていた。


(青春の黙示録より)

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