古庄村物語 その5

 ご存知とは思うが地方の小さな自治体は単式簿記が多い、いや多かったと言った方が正しい。この辺りの村の公民館などもそうだが、償却しない。その建物の資産価値を表示する意味がない。現金と使った金がすべてである、未払い金も未収金もない。この古庄村も我々が行き始めた当初は単式簿記だった、今は複式簿記になっている、しかし人は簡単には複式にはならない、単式の癖は治らない。つまり物事の因果性とその原因のあり方を理解出来ない様だ。「連絡します」と言うと責任が生じる、若い岩本にとって「連絡します」は、いつかはします、と言う意味でしか無い、それで村では済んでいた。空気は澄み古庄川の清い流れは変わらず、いつのまにか充電コードのことは忘れていた。返送依頼の手紙はうず高く盛り上げらた書類の中に埋もれていた。注意する上司もいない、村長は出張と称して隣り村に出掛けては猪や山鳥の話に余念がない。"平和とは忘却のことなり".と教えてくれたのは先輩の言葉だ。その先輩は"村の駅"の店員との不倫でこの村を出ていった、もう五年になる。



コメント

人気の投稿