何回も

 この宿には何回も来ているが、いまだに方角が分からない。自分では東が西、南が北になる。それは蒜山で左に折れてまた左へ行くせいだと思う。北に向かって西に、そして南に行くから回ってしまうからだろう。朝日が頭の方からさしてくる。コーヒーを入れて持参のパンをたべる。そして本棚に目をやると、渡辺淳一があった。「浮島」を手に取る。二、三ページ繰ると43歳の男が28歳の女とバリ島に出かけるところから始まる。面白そうだ。「はじめは新鮮で洒落ているが、歳月とともに色褪せてくる」の表現がある。やはりなあ、と思いながら読み進む。映画も小説も最初の2、3ページが大事だ、映画なら2、3分だ。

そうだ、熱愛も新鮮さがあるからこそ、なんだね。赤木は外へ出て山々がしずかな眠りから覚めるのを見た。

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