古庄村物語 その3

 標高1623mの毛無山からは日本海が見える、雄滝女滝は蛍の群生群舞が素晴らしい、建武の新政にて敗れた後醍醐天皇が隠岐島に流される途中に腰を掛けたとされる石の近くに天皇が詠んだ歌碑が立っている、日露戦争勝利で村人が帰還した兵隊を讃えた凱旋通りの桜はその季節には大勢の観光客で花びらが震える。冬は寒いが夏は涼しい、県南とは2、3度の差はある、真夏でも早朝は思わず掛け布団を引き上げるほどだ。もう既に5〜6回は来ている。
 ある時、昼過ぎからバーベキューを玄関先でしていたら小学生が数人下校していた。そこで一人に
「坊や肉食わないか」と言ったら近くに来たからカルビを与えた、すると同行の一人が
「帰ってお母さん呼んでらっしゃい」と言った、もう大分酔っていた。
少年が悄然と答えた。
「お母さんは居ません、父とじいちゃんだけです」と、明るく健康的なこの村の影を垣間見た気がした。悪いこと言ったと、それを言った大西は反省したはずだ。
少年は帰っていった。母親は来るはずが、なかった。

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