老女?    

 「あなたが正しかろうが、正しくなかろうが、とにかくあなたとは近づきになりたくないのです」(罪と罰、下巻、7ページ)



 城からの帰り、駅からの歩き道、新幹線高架下に1人の老女が橋桁にもたれる様に寝ている。アルミ缶が入った袋を右手で持ち、頭は半白髪で何日も洗っていないからか束になって固まっているようだ。煮締めたような分厚いコートを着ている。足をだらしなく放り投げて、そしてそこからは一筋の液体が流れ出している、そして寝ているのか、喉の辺りは動いてるようだ。それは注意して見ていなければ廃品回収に捨てられた古い布団のかたまりの様に見えた。この辺りを徘徊している老女だ。老女と言っても実は60くらいかもしれない。

 私は「罪と罰」時代のロシアを思った。勿論、今読んでいるからだ、ラスコーリニコフは大して義理もない一家に25ルーブルを簡単にあげてしまう、さて当時の金でいくらくらいか、前後の文章から2〜3万円くらいか、私もこの老女に手持ちの3万円程あげなければならないか、と考えた。しかし、1番に考えたのは、何日も風呂に入っていないだろう、そこからの悪臭だ、いつの日にか、南海高野線のある車両を思い出した。それは表現のしようのないニオイだった。吐き気を通り越して絶望感が出てくるほどの悪臭だった。私は見ぬ振りをして通り過ぎた。

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