喫茶店     

 男は週に一度は必ず図書館に行く。自宅の近くにも分館があったが、今は改修中なので、まあ仕方なく、しかし、一つの楽しみとして中央の図書館に行く。そして予約していた本を借りると併設の喫茶店に行く。
 噴水に対して見渡せるように席が並べてある、名前は「サイド」と言う。噴水の周りにあるからサイド、なのか図書館の横にあるからサイドなのかは知らない。それなりに良い名前だと思う。なまじリバーとかパークとかが前につかないのがいい。コーヒーを頼み本を開く、「秋のカテドラル」と言う、遠藤周作の初期短編集と銘打ってある。まるで今日買ってきたような本である、ページを開くと音がするようだ。最初の短編は遠藤が「初恋の人」と会うというテレビ番組の話しだ。アカシアの大連にいた頃の話しで、テレビ局はその人を探し当てる、と言う筋だ、実話に近いものだ。
 男は「自分なら探してもらわなくても、今でも電話出来るなあ」と壁に沿って落ちていく水を眺めていた。


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